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ざわめきやまない

まさかと思っていた。
母が家を出た。
置き手紙のうしろで
夏の終りの花々が
そそけた枯れ姿をさらしていた。
ガーベラが。
サルビアが。
おにゆりが。


こんな主人公の独白をプロローグとして始まる高田桂子の小説、

ざわめきやまない

は、中学生の時に出会い、何度も何度も読み返してきた本です。

物語は、九月から始まります。初めてこの本を読んだのも、やっぱり九月。そして今も、九月。

昨日久々に手に取ったら、また夢中で読んでしまいました。

舞台は1980年代後半の東京郊外。

主人公は、子どもの頃からお父さんの仕事の関係で転校を繰り返してきた公立中学校の三年生、里子。どの転校先でも上手に学校にとけこんで、両親にわがままらしいわがままも言ったことがない。大きな病気や怪我もなく、成績も優秀。

今の学校も二年生の三学期に地方から転校してきたばかり。
三年生の一学期には学級委員や修学旅行準備委員会、「その上、(里子とは別な子の)急な転校で空きの出た生徒会の書記の役まで、なぜか引き受けてしまった」という、「いい子」。

中学三年生の里子をまた転校させることはできない、とお母さんが訴えたことで、再び転勤となったお父さんは現在島根に単身赴任中。
が、過去にこの家族を襲ったある大きな悲しみと、仕事に逃げてその悲しみを共有してくれない(ように見える)お父さんへの失望によって、二人の関係は冷え切っています。

少し前から孤独を募らせ精神的に追い詰められていたお母さんはそして、家を出て行ってしまった――

里子が何度電話して助けを求めても、仕事を理由に単身赴任先から帰って来てくれないお父さん。
二日後、おばあちゃん(お母さんの母親)が京都から駆け付けてくれて、学校の先生や友人たちにお母さんの失踪という「大スキャンダル」を隠しながら二学期を迎えた学校に通う里子ですが、これまで通りの「いい子」のままでいることができません。

「ざわめきやまない」。

物語のタイトルとなっている「ざわめき」とはすなわち、
両親をはじめとする大人たちや、社会の理不尽に対する、疑問や怒り、そして哀しみ(悲しみ、とはちょっと違う)。さらに、それをずっと我慢してきた里子が自分の心の奥底を初めて見つめた時の、戸惑い、です。
必死に現実を乗り越えようとする中で、里子は裡に秘めていた心の「ざわめき」に、耳をふさぐことができなくなっていきます。

分厚い眼鏡をかけておでこやほっぺたのにきびを気にしながらこの本を読んでいた当時の私は、
たちまち里子の「ざわめき」にいたく共感し、心から声援を送り、「私も受験がんばろう!(←ちょっと違う)」と誓い、
以来この本は、いつも私の本棚のすぐに手の届く場所にあったのでした。

当時は同世代の「友だち」だった里子ですが、
久しぶりに本を開いて「再会」すると、当たり前ですが中学生のままですから、
今回は気がつくと先生のような、母親のような、そんな気もちで里子の心を追っていました。
思えば遠くへ(行って帰って)きたもんだ。。。


たくさんのやむことのない「ざわめき」の中から、里子はあるひとつの答えを見つけます。
この答えは私の心の中にもしっかり仕舞われていて、当時も今も、変わらずに私を励ましてくれます。


ちなみにこの年齢になると、
家を出てしまった里子のお母さんの気もちも、ひりひり痛いほどよくわかる。
鏡台に一本だけ残された、もう底が見えているのにまだつかわれていた口紅。何度も踵や底を修理して履いていた靴。これは「倹約」なんかじゃ決してなく、自分で自分を罰していたんだよね。ずっとずっと。

初めて読んだ当時も里子と一緒になってじーん、と感動していましたが、おばあちゃんが京都弁で里子に語りかける言葉も、ひとつひとつがあったかくて、重い。

えらい、思うてますえ。なかなか口にはできひんことやけど。里子ちゃんのこと、尊敬してますえ

里子とおばあちゃんはこの物語の中で実に様々なことを話し合うのですが、
めいっぱい頑張ってしまって、心の大事なところがぷつん、と切れそうになってしまった時に必要なのは、
きっとこんなシンプルな言葉。
でも、おばあちゃんは家を出るまで追い詰められていた自分の娘には、言ってやることができなかったんですね。
だからこそ、今、同じように自分を追い詰めそうになっている孫の里子には伝えたい、と思う。

それから、転校を繰り返してきたが故に「友だち」というものにどこか冷めていた里子が初めて「一生の友だちになれるのでは」と思う少女、佐藤千佳。
我慢に我慢を重ねたお母さんが残していった古い口紅のくすんだ色とは対照的に、帰国子女の彼女が耳に光らせて敢えてはずそうとしないのは、真っ赤なピアス。
薄い刃物のように鋭くて脆い心をもちながら、自分の力で自分の進みたい進路を勝ち取った彼女。
痛々しいけれど眩しい彼女の強さには、やはり今回も励まされました。


先ほど冗談まじりに「受験頑張ろう」と誓った、と書きましたが、
この物語の一番大きな柱はもちろんそんなんじゃなくて、
世代も生き方も違う女性たちと関わってていく中で、
里子という15歳の女の子が、
女性であるというのはどういうことか、女性としてどんなふうに生きていきたいのか、
15歳なりに考え始める、というところなんですね。
高校受験が終わっても、当然里子たちの、私たちの、人生は続くのです。
この本を読んでいた私が、今もこうして生きているように。


ジャンル的にはジュブナイル、なんでしょうね。
現在では非常に手に入りにくくなっていますが、
この作品は1990年に第12回路傍の石文学賞を受賞しておりまして、
(その他の歴代受賞作は灰谷健次郎の『太陽の子』『兎の眼』、黒柳徹子『窓際のトットちゃん』など)
Amazonでは何冊か中古で出ているようです。

図書館なんかにも、入っているんじゃないかなあ。
興味のある方は、是非。


今日はちょっとイレギュラーな「みしゅみしゅ」でした。

明日は久々の東京歌会のため、東京へ。

それでは皆様、ごきげんよう!



※2013年9月16日 加筆修正しました。
by chicayoshi | 2013-09-14 14:11 | | Trackback | Comments(5)
みなさまこんばんは。齋藤です。

東京オリンピック、決まりましたね。

蓋をあけてみたら、マスコミや評論家がさかんに喧伝していたこととかなりの「温度差」があったんだな、

という印象。以上。(これは皮肉です。)



さて、シリア情勢に関連して、本日は本の紹介。

ターハル・ベン=ジェルーンの、

アラブの春は終わらない

それから、

火によって

の2冊。

作者はモロッコ出身の作家で、

1987年に

聖なる夜

でゴンクール賞

を受賞しています。

どちらもあっという間に読めてしまいますが、

特に『火によって』は、なんかもうこんなに救いがなくていいのか、とやるせなくなります。

あのデモに参加した若者たちの心情をここまでシンプルに、かつ的確に、

ひたひたと読者の胸に刻み付け、共感を呼ぶ小説ってなかなかないのではないかと。


この『火によって』の翻訳を手掛けた岡真理氏は、

彼女の著作である

アラブ、祈りとしての文学

の中で、

文学は祈ることができる

ということを述べています。

この二冊もまた、

自らの立場から真摯に文学を追究してきた一人の作家の、切実な「祈り」です。
by chicayoshi | 2013-09-08 20:39 | | Trackback | Comments(0)
みなさまこんばんは。
齋藤です。

突然ですが私、積読、大好きです(汗)。

なんというか、まだまだ読んでない本がいっぱいあるのに、

本屋さんで本と「目が合う(わかるかなこれ。。。)」と、

ついつい買ってしまいます。

で、福島に帰って来てから、そんな積読本を少しずつ読んでいるわけ。

これ、買ったのは、、、もう10年ほど前!?(自分で数えてみてショック。。。)

熱帯産の蝶に関する二、三の覚え書き。

いやいやいや、今リンクを貼ろうとしてまたびっくりした。

Amazonの中古1円で売ってるよ。どういうこと、これ。

そりゃ私ずっと積んどいたわけですが、どの短編も好きです。

表題作は、主人公の記憶をたどるためにオオカバマダラがかなり重要な役割を果たします。

チーム・ダーウィンの皆様、是非。

「ダーウィン」で追いかけたオオカバマダラを文学の世界の中で追いかけると、こうなるんですね。

みなさまもよろしければ、ご一緒に。


それでは今宵はこのへんで。

おやすみなさい!
by chicayoshi | 2013-09-02 23:50 | | Trackback | Comments(0)
エリザベス・ギルバート。

彼女大好きです。
映画にもなった

『食べて、祈って、恋をして 女が直面するあらゆること探求の書』

も好きですが(映画はあまり好きじゃなかった)、

「巡礼者たち」

などの短編がすごく好き。

さて今日は彼女のスピーチを観てました(日本語字幕付き)。

物書きには、とっても示唆に富むものだと思います。


ああ、今日で全国大会が終わりましたね。
いろいろ仕事の分担があったのに、ごめんなさい。。。


写真は今日の空。


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by chicayoshi | 2013-07-28 21:13 | | Trackback | Comments(0)

ヒエログリフを書こう!

書きたいですっ!!!
……というわけで、ものすっごくステキな本を見つけてしまいました。。。

フィリップ・アーダ 著
吉村作治 監修
林 啓恵 訳

『ヒエログリフを書こう!』です。

早速書いてみましたよ♪
(「書く」、というより「描く」だね。)

↓「新年おめでとう!」です。
こう⇒ 読んでよいそうです。

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右からふたつめ。。。これウードだよね?ねっ!!!??
by chicayoshi | 2011-01-02 21:31 | | Trackback | Comments(0)

百万回生きたねこ

佐野洋子さんが、お亡くなりになりました。。。

「百万回生きたねこ」、大好きでした。残念です。とても残念です。。。

エンタメ総合 - エキサイトニュース

心より、ご冥福をお祈り申し上げます。

楽天ブックス: 100万回生きたねこ - 佐野洋子 : 本
by chicayoshi | 2010-11-05 19:35 | | Trackback | Comments(3)

短歌結社「かりん」所属齋藤芳生のブログです。「みしゅみしゅ」はアラビア語で「あんず」のことです。主に齋藤芳生の掲載情報やエッセイなど。最近は写真も好きです。どうぞよろしく。


by chicayoshi